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【ライティング・翻訳】(初級~中級) テクニカルライティングの3C
~正確かつ分かりやすく、簡潔な英文を書く基本~

『頑張って書いた英文を理解してもらえない』
『書いた自分もよくわからない英文になっている』
『英検やTOEFL iBTなどの試験で目標点を取りたい』

英文を書くというのは慣れていないと骨が折れる作業です。原文(元となる日本語の文章)の有無によらず、相手に一発でわかってもらうためにはどのような英文を書けばよいのでしょうか?

そのための技術の1つが『テクニカルライティング』です。

この記事ではテクニカルライティングの基本概念である『”3C”= Correct, Clear, Concise』について簡潔に説明していきたいと思います。テクニカルライティングは主に科学・技術系の業界におけるライティング技法であり製品の仕様書やマニュアル、報告書や科学論文などを書く際に用いられる技術となります。

3Cに基づく英文ライティングを自分のものにすることによって、『正確でわかりやすく、相手に誤解を与えない簡潔な英文』を書けるようになります。

本来Correct, Clear, Conciseのそれぞれで1つ記事を書くような内容ですが、今回は特に重要なところを抽出し、概説していきますので全体像を掴んでいただければと思います。

前述の通り論文を書く際に用いられる技術でもありますから、当然の如く英検やTOEFL iBTをはじめとしたエッセイライティングを伴う試験対策としても有効です。翻訳者レベルを目指すとなると相当なトレーニングが必要ですが、これらの試験対策であればここで概要を理解するだけでも十二分に通用すると思います。

解説は翻訳者・翻訳者志望が受験者の多くを占める中、合格率2-5%程度の工業英検1級(現 技術英検プロフェッショナル)、合格率2%前後のJTFほんやく検定1級を取得しているDr. Enが行いますので安心して読み進めていただければと思います。

さて、準備はよろしいでしょうか?是非勉強していきましょう!

テクニカルライティングの概要

少しだけテクニカルライティングの背景についてまとめます。

近年、経済や貿易、学術界などあらゆる分野が国境を越えてますますつながりを持つようになりました。近現代の産業発展や経済成長を英国・米国が率いたこともあり、ネイティブ・非ネイティブを問わず世界中の人が英語で書かれた文書を通し情報を共有することになります。国が違えば文化が違い、文化が違えば考え方が違います。私たちは様々なバックグラウンドを持つ人たちとかかわりを持って生きるようになりました。

そのような中で科学技術はますます発展し、コンピューターやその他の機器・機械類も高性能・高機能化しています。しかしながらこれらに関する膨大で複雑な情報を世界中の経営者/製造業者/技術者/ユーザーが英文を通して共有することは非常に重要である一方、けして簡単なことではありませんでした。

こうした背景から国際社会で求められる英語として『誰にでも伝わる英語』が重要視されるようになりました。不必要に高度な語彙を使うことなく、煩雑で分かりにくい構文を用いず、誰にでもわかり且つ(ある程度の英語力があれば)1回読めばわかる、という英文ライティングが求められるようになりました。こうしてテクニカルライティングという考え方が生まれ定着していったのです。

テクニカルライティングが用いられる産業・科学といった分野では、マニュアルを読みながら製品を作る、報告書を読みながら意思決定をする、論文を読みながら実験を行うというように、何かの作業と文書を読む作業が表裏一体であることが多々あります。そのため、必ずしも読みたくて読む文書、というわけでもありません。実務上の理由からだけでなく、人間の心理的な側面からも3C:Correct, Clear, Conciseという考え方は大切になります。

① Correct:正しく書く

言うまでもないことではありますが、正しい英文を書くというのは最も重要です。テクニカルライティングにおいて書かれた内容に問題があれば製品の破損だけでなく、多額の損失、命に関わる大怪我が生じることもあります。読み手の立場になって考えればわかるのですが、こと『業務』においては正しく書かれていない英文に読む価値はありません(とはいえ人間ミスはしますし完璧な英文を常に書き続けるのは難しい、だから正しく伝わる英文を書けるよう練習するのです)。

ここでいう『正しい』とは、

・英文として正しい
・内容的に正しい

の2点を含みますが、ここでは英文としての正しさについて扱います。

正しい英文を書く場合、内容以外に気をつけるべきことは大きく分けて

・文法、構文は正しいか
・語彙(カタカナ語を含む)を正しく用いられているか
・表記法は適切か

の3点です。それぞれを見ていきましょう。

①-1 文法、構文は正しいか

誤った文法、構文を用いてしまうと誤解釈の原因になります。また英文の質が悪いと判断され、その内容に対しても信用を失うおそれがあります。文法、構文が正しく使われていることは重要というより必須です。

では例文を見ていきます。マニュアルに書かれている英文だと思ってください。

Pressing the button, the computer starts.

“press the button”を行うのは読み手(例えばyou)ですね。この英文では懸垂分詞と呼ばれる典型的な誤りです。懸垂分詞は一部許容される場合もあるようですが、誤りだと思ってください。リライトしてみましょう。

When/If you press the button, the computer starts.

これで文法的に正しくなりました。この例文はもう少し磨けますので、後でまた登場してもらいましょう。

さらにもう1つ紹介します。

Disconnect any cords connecting to the computer.

動詞connectは自動詞/他動詞どちらでも使えますが、cordが自発的に動いてコンピューターに繋がりにいくわけではなく人がconnectすることから、

Disconnect any cords connected to the computer.

となります。自動詞/他動詞の使い方は難しいですが、人や機械などの外的な力で動いているかどうかは1つの判断基準になります。ではこちらはどうでしょうか?

Water flows in the river.

この例文で、たしかに水は自力ではなく、高低差によって動いているのですが、人や機械が動かしているわけではないので自動詞flowで問題ありません。

①-2 語彙を正しく用いられているか

文法、構文だけでなく正しい語彙を使うのも必要になります。

例えば、

クーラー
×cooler → 〇air conditioner
※coolerは冷却器、冷却材

クレーム
×claim → 〇complaint
※claimは強い要求や主張

交流電流
×AC current → 〇AC
※AC: alternating current

このような語彙の誤りは意味を通じなくさせてしまいます。特に業務に関わる文章を書くときは、こまめに辞書を引く癖をつけましょう。

①-3 表記法は適切か

表記法とは、文章の記載ルールのことです。ここでは特に重要な

・セミコロン
・単位と数字
・大小関係

この3つを挙げていきます。表記法については業界などによって従うルールが異なる場合があります。必要がある方は後で触れる表記法『スタイルガイド』を参照しましょう。ここでは大抵のスタイルガイドで共通している、一般的なものを解説いたします。

セミコロンの使い方

主な用法は関連する2文を繋ぐことです。ややこしいと感じる方は無理に用いず、ピリオドで2文に分けても問題ないです。

エラーが起きた。その結果、機械は停止した。
→ The error occurred; as a result, the machine stopped.

この日本文の英訳としては実際には別の書き方をしたいところですが、セミコロンの使い方の例文としては問題ないかと思います。

単位、数字の取り扱い

学校教育、TOEICを中心とする日本人の英語学習環境ではあまりなじみのない項目かもしれません。

単位記号の使い方で重要なのは以下の2点です。

・単位記号は算用数字と一緒に用いる:×two kg → 2 kg
・単位記号はスペースをあける:×2kg → 〇2 kg

※角度は空けない45°など、例外あり

数字の記載で重要なのは以下の2点です。

・文頭の数字はスペルアウト:
Thirty candidates applied for the job.

・1-9はスペルアウト、10以上は算用数字:
We have four chambers in the system.
The company has 50 employees.

※スタイルガイドによっては1-10をスペルアウトとする場合など例外あり、スタイルガイドについては後述

大小表現に注意

大小表現を多く紹介することではなく、テクニカルライティング上の留意事項としての説明ですので簡潔に紹介します。

重要なのは、more/less than ~~は“~~”を含まないということです。

those (who are) aged 40 or older (40歳以上の人)
those (who are) older than 40 (41歳以上の人)

話すときなどはネイティブも若干曖昧に使うことがありますが、実務ライティングでは厳密にやりましょう。

② Clear:明確に書く

『英語は客観的な言語である』
『英語は必ず主語があるから意味が明確である』

といったことはしばしば耳にしますが、『英語だから客観的』という論理は誤りです。英語を使用していた地域の他民族性をはじめとした歴史的背景から、行間を読んで察してもらう日本語のような文化がなかったために客観的・論理的な書き方が育った、といった方が正しいでしょう。

そして『英語だから常に明確に書かれている』というのも正しいとはいえません。私は中国語やフランス語も独習していますが、特にフランス語は英語に比べるとより厳密で、主語と動詞の活用形などから主語や係り受けに関する誤解が生じにくいようになっています。必ず主語を伴うため日本語よりはマシですが、つながりや構造が曖昧な英文を作ることは実はそれほど難しくありません。

ここでは

・動詞を効果的な活用
・避けるべき曖昧な表現
・修飾関係に潜む落とし穴

という3点を取り扱います。

②-1 動詞の効果的な活用

効果的な動詞を用いることで明瞭な英文を書くことができます。簡単に言ってしまえば、読んだ後の『つまりどういうこと?』を減らすことができます。

例文を用いるのが最もわかりやすいでしょう。あなたは『悪天候だとシグナル伝達が悪くなる』ことを書きたいと仮定します。

Bad weather affects signal transmission.

何が問題か説明できるでしょうか?スクロールせず、少しでいいので考えてみましょう。

見出しに動詞の活用、とあります通り”affect”がまずいわけです。動詞affectはよくも悪くも影響を与える場合に使えるので、この文は『悪天候がシグナル伝達に影響を与える(がどういう影響かは不明)』という文になってしまいます。

前後の文章の記載によりますが、ここでは書き手であるあなたは伝達が悪くなることを書きたいとします。

Bad weather negatively affects signal transmission.

これでいかがでしょうか?さっきよりも具体的で分かりやすくなりました。

しかし、もう一歩踏み込んでみましょう。悪天候によって悪影響を受けることはわかりますが、まだまだ曖昧です。

『悪影響』とは何のことでしょうか?伝達は遅れるのですか?完全に障害されるのですか?100%そうなるのでしょうか?これだけだとわかりませんのでさらにリライトします。

Bad weather disrupts signal transmission.
Bad weather delays signal transmission.
Cloudy weather could disrupt signal transmission.

伝達が障害されるのか、送れるのか、絶対なのか可能性なのか、これらの英文ではそういったところがカバーされていると思います。

しかしながら、3文目のcloudy weatherに対し『どのくらいcloudyか』など突っ込み始めるとキリがありません。必要があれば大気透過率などの客観的な指標を示すことにもなるでしょう。

大切なことは、文章はいくらでも曖昧にも、厳密にもできることを理解し自分の言いたいことの『明確さ、厳密さの範囲を適切に表現する』ことです。そのために重要なのが適切な動詞の選択です。

どの動詞を使うかを決めるには、まず主語を決めなければなりませんので主語・動詞という文の幹をどうするか、という視点で英文を組み立てるとよいでしょう。

②-2 曖昧な表現を避ける

先ほどのcloudy weatherの部分と共通しますが、曖昧な表現を極力避けます。

Give me a reply as soon as possible.

なにがいけないのか、すぐにわかりますね。結局いつまでに返事をすればいいのかわかりません。期限をぼかさずに、

Give me a reply by the end of this week.

とするといつまでに返事をすればよいか、はっきりします。

このように、人によっていくらでも解釈できる書き方を避けて具体的に示してあげることが明確な英文を書くのに重要なことです。

②-3 修飾関係に潜む落とし穴

多くの方が思っているよりも、英語を書くときは修飾関係=係り受けに気を付けないと非常にわかりにくく誤解を生む英文になってしまいます。そうした例をこれから見ていきましょう。

日本文と英文を比べてみましょう。

(日本文)
安全上の理由から、オペレーターは機械操作時には回転部分に近づいてはいけない。

(英文)
Operators are prohibited from approaching the rotating parts while the machine is in operation for safety reasons.

おわかりでしょうか?

“for security reasons”は何に係っているのでしょうか?operators以下の主節でしょうか、それともwhile以下の従属節でしょうか?

主節にかかるのであれば『安全上の理由で近寄ってはいけない』となり、従属節にかかるなら『安全にかかわる理由で機械が動作している間には近寄れない』と解釈できます。

日本文を見ると明らかですが、『安全上の理由で、動作中は回転部に近寄れない』ですのでこの英訳は紛らわしくなってしまっています。リライトすると、

The operator must avoid access to the rotating parts during the machine operation for safety reasons.

For safety reasons, the rotating parts are not accessible to the operator during the machine operation.

などと書けるでしょう。係り受けは英検1級取得者どころか、翻訳者レベルの方にとっても難しいものなので、これらに十分気を配ることができるようになるとかなり書き慣れている、といってよいと思います。

➂ Concise:簡潔に書く

いよいよ最後の項目です。お疲れでしょうか?もう一歩です。

『簡潔に書く』というのは、大きくわけて2つあります。

・不要語を省く
・語数を減らす

それぞれ見ていきたいと思います。

➂-1 語数を減らす

同じ内容を伝えることができるならば、少ない語数で表現できないかと考えるのがテクニカルライティングの基本の1つです。例えば、Correctの節で用いた例文を出します。

When/If you press the button, the computer starts.
(8語)

これで文法的には特に問題はありませんが、テクニカルライティングの観点から考えると以下のようにリライトできます。

Pressing the button starts the computer.
(6語)

英文の基本である第Ⅲ文型(SVO)を用いることで因果関係をはっきりさせ、語数も少なくできました。中々難しいかもしれませんが、練習して身に着けると慣れてきます。

➂-2 不要語を削る

冗長な表現や意味のダブりなど、いらない言葉は削ります。削りすぎたことにより意味が変わらないように気を付けてください。

このセンサーは光の存在を検出する。

This sensor detects the presence of light.
(7語)

雰囲気かっこいいかもしれませんが、the presence of は余剰(redundancy)です。光をdetectするのと、光の存在をdetectするのは同じだからです。

This sensor detects light.
(4語)

直訳しすぎるとこのような不要語を含む文になりかねません。冗長に引き延ばされた英文は本当に読みにくいので、なるべく短く伝えることを意識されるとよいかと思います。

スタイルガイドとは?

少し先に言葉を出してしまいましたが、ここで説明させていただきます。スタイルガイドとは、略語の使い方、ハイフンなどの記号の使い方といった表記法のルールブックと考えていただければと思います。ACS (American Chemical Society)やAPA (American Psychological Association)、Chicago Manualをはじめ、他にも色々なスタイルガイドがあります。厳密な記載が要求される業界や専門性の高い業務ではスタイルガイドに従って書かれる場合があります。そういった実務に携わる場合は必ずどれに従っているか確認し、表記法を合わせましょう。

例えばeveryoneをtheyで受けてもよい、といったことはスタイルガイドに記載されています。また、例えばTOEFL iBTや英検のエッセイではスタイルガイドのいずれかに書いてある表記法なら基本的に減点されないと思います。それを減点するということは、世界で広く使われる文書・論文の記載ルールを否定することになるからです。一試験団体がそのようなことはしないと思います。(だからと言って試験対策のためにそれなりのページ数のスタイルガイドを読み込むのはちょっと違うかな、と思います。)

全て3Cで書けばよいのか?

ここまで書きましたが、実務文書のすべてをテクニカルライティングの3Cをフル活用して書けばよいかというとそうではありません。

テクニカルライティングを意識しすぎるとどうしても短く強い表現になります。無機質に感じることもありますし、有無を言わさない感じもあります。そうした表現が適切でない場面も多々あるでしょう。例えばメールのやり取りならば相手に対する気遣いや労いの言葉、I / we / youを主語にした表現を多く用いるかもしれませんね。

困ったら自分の業界の関連文書と比較することや経験者にアドバイスを求めることをお勧めします。

まとめ

テクニカルライティングの3Cについて概説いたしました。ライティングは英文としての体裁、内容ともに重要ですが今回は特に前者について役立つ技術になります。

・文法構文、語彙、表記法の観点から適切な表現を用いて正しい英文を書くこと
・明確な文型、動詞を用いて書くこと
・冗長な表現を削って少ない語数で書くこと

これらを追求することで、『正確でわかりやすく、相手に誤解を与えない簡潔な英文』を書くことができるようになります。また、TOEFL iBTのエッセイなどで不必要な語句で無駄に引き延ばして500語書くよりも、短くわかりやすい英文で300語書いた方が高得点がでます。もちろん書く内容も重要なのは言うまでもありません。

英文ライティングの世界は非常に奥が深いです。文法事項や語彙の基本を大切に、一つ一つ身につけていただければと思います。

長い記事でしたが、最後までお読みいただきありがとうございました。読者の皆さまのお役に立てれば幸いです。