前回の記事『英語学習継続のために(前編) ~習慣化のノウハウより大切なこと~』では英語学習を習慣化するための具体的な行動をとる『前段階』として意識しておくとよいだろうこととして、以下の2点についてマズローの欲求段階説に基づき書きました。
・自分が英語学習に対してどのような欲求を持っているか
・英語学習を始め、続けるためには英語学習で満たしたい欲求の前段階までの欲求が満たされている環境を作り上げておくこと
この記事では習慣化に関する具体的な行動のとり方について解説していきます。新しいものを始め、続けていくために適切なマインドセットの下、どのような行動をもって自らを律していけばよいのかについて、
・物理的コントロール(行動の制御)
・情緒的コントロール(動機付け)
・英語学習を楽しむこと
の3点から考えてみたいと思います。
物理的コントロール
物理的コントロールは「そうせざるをえない」状況を自ら作り出して自らの行動を制御する方法です。長所は一旦習慣化させてしまえば殆ど苦にならず当たり前にできること、短所は『一旦習慣化する』までに一定の期間を要するので、その段階にいたるまでに何らかの工夫を要することが多いことでしょうか。
物理的コントロールによる習慣化を達成するためには、前記事でも書きましたが①英語学習で満たしたい自分の欲求に向き合うこと、②健康や精神的損耗、家族や職場の人間関係など社会的な内容のうち英語学習を取り組む際に妨げとなる問題を解決しておくこと(=英語学習の欲求より前段階の欲求が過度に不足していないこと)が特に重要です。
色々ありますが、ノウハウとしては基本的には次に挙げるルーチン化、環境制御の2点のみで十分と思います。
ルーチン化
習慣化の基本は「決まった時間あるいは順番に決まったことをする」と自分の中でルール化することです。例えば、『朝5時に起きて軽くジョギングとシャワー、6時から1時間勉強し7時から朝食、7時45分に家を出る。夜は23時に必ず床につく』と決まりを作ることで朝1時間の学習時間を確保できています。朝起きてすぐ机に向かうと眠気が強い可能性があるので体を動かして心拍数を上げ、交感神経優位(覚醒状態)にするなど工夫しておくとよいでしょう。
ルーチン化は自分の生活に学習時間を組み込むために重要なことですが、けして人の真似をしてはいけません。学習時間として朝がいいのか、夜がいいのかは人によって異なります。仕事も家族構成など社会的背景も違います。自分の捻出しやすい時間を見つけ、自分のルーチンを組むことが重要です。
環境制御
前記事『継続的な英語学習 ~習慣化のノウハウよりも大切なこと~』で述べた環境は、英語学習を実践するためには衣食住、仕事の忙しさ、家族の理解といった『勉強以外の』環境を整えることでした。ここでいう環境制御とは『勉強する時に集中するための環境づくり』だと思っていただければよいかと思います。
簡単に言えば『強制的に勉強するしかない環境を作ること』です。現在はCOVID-19の影響で難しいこともありますが、勉強道具だけもって図書館や自習室、勉強OKなカフェなどに行く、というのが最も代表的な例でしょう。邪魔にならない限り、周囲に人がいて多少雑音がある環境の方が集中できるという感覚を持つ人もいると思います。
実際、周囲の人の動きや雑音といった刺激(妨害刺激)によってタスク(勉強や単純作業)に対する集中力が向上する傾向にあり、しかもパフォーマンス低下を伴わないことは報告されています。中には統計的に証明するに至らなかった研究もありますが、妨害刺激があるときの方が集中力を増強するというのは広く認知され、実際研究されている分野です。
これも個人によって差があるので、図書館などで気が散ってしまう場合は個室・半個室型の自習室を使う、自分の部屋に机を置いて環境を作るなどするとよいでしょう。上記の通りある程度研究されている分野でもあり、相性がいい方はこの方法を試すとよいと思います。
情緒的コントロール(動機付け)
動機付けとはすなわち『やる気を出すこと』です。私たちは周囲から様々な影響を受けています。その刺激をうまく学習に結び付けることを学んでいきましょう。
外的動機付け
外的動機付けとは文字通り外からの動機付けです。『テストで100点取ったらお小遣い1万円』『締切に遅れたら厳重注意処分』といった飴と鞭(報酬や懲罰)が最も有名な例でしょう。物理的コントロールに似ているように思われるかもしれませんが『外的な刺激から、自分で行動することを選択する』外的動機付けと『自ら選んで環境を制御し、その行動(学習)以外の行動をとれないようにする』物理的コントロールとはやはり異なるものです。
自分の外での出来事ですので、外的動機付けが生じるタイミングを自分でコントロールすることは通常できません。しかしながら、『2か月後に海外出張で重要な商談』といった業務が急に生起した時、2カ月間英語学習に励むための強い外的要因が生じています。こうした機会を上手に利用できれば習慣化し、高い学習効果を得るところまで持っていけることでしょう。
弱点としてはある行為が外的な要因を満たす、または解消する目的になってしまいかねないことです。例えば『テストでいい点とったらお小遣い』を続けているとその子供は自分のためにではなく、お金のために学ぶことになってしまいます。そうすると、学びの楽しさ、新しいことを知る喜びといった自分の内なる欲求や感情を体感することが難しくなり、お小遣いをもらえないなら勉強しない、という状態になってしまいかねません。学びを深め、生きる力を養うという学びの大切な目的を気づかせることができず長期的には大きな損失となるでしょう。
このように外的動機付けは短期的には有効な場合も多いのですが、長期的な効果は限定的であると考えたほうがよいと思います。
内的動機付け
内的動機付けとは気持ちに火をつけるということであり、『自分からやりたい!もっと上手くなりたい!』と内側から湧き上がるモチベーションのことです。
この内的動機付けは『英語学習継続のために ~習慣化のノウハウより大切なこと~』で書いた欲求充足と重なる部分が多いです。すなわち欲求充足=気持ちいい!を満たすことができれば学習は自然と続きやすくなるものです。具体的な行動としては以下のものがよいのではないでしょうか。
友人と達成状況について報告する
報告義務や周囲の目による外的動機付けの要素も一部混じっておりますが、同じく英語学習をする仲間と小さいグループを使って進捗状況をシェアすることがよいと思います。進捗状況を報告するため、という外的動機付けと、人よりも早く進めよう!という内的動機付けの両方が学習を支えてくれます。加えて、相談できる仲間がいるのは所属の欲求の観点からも大変よいことですし何より学習経験を豊かにしてくれます。
資格試験に挑戦する
試験という目標に向かって頑張ることで実力チェックに加え、精神的充足感を得られます。頑張った努力が報われたらうれしいですし、受からなかった時も課題を浮き彫りにすることができます。受かった時に友達から褒めてもらう、目標達成した時の自己効力感といった尊重欲求、自己実現欲求が満たされるので自分に自信を持ち、学習により真剣に取り組めるようになります。また、試験日が決まっているため外的動機付けの1つ『締切効果』を得ることができます。
マズローの欲求段階説の観点から言えば、下位の欲求(生存、安全、所属の欲求)が達成されたときは『危機を脱してほっとした安心感』を抱き上位の欲求(尊重、自己実現の欲求)が満たされたときは『自信、自己効力感に繋がる達成感や充実感』を味わいやすいです。満たされたときの正の感情は段階が進むごとに大きくなる傾向があり、英語学習への意欲をさらに高めることができます。欲求段階説については前編でもう少し解説しておりますのでここでの表記でわかりにくい場合は是非前編をお読みください。
経験上、SNSやブログを通じて同じ試験に向けて頑張る人たちが集まって情報共有するコミュニティに混ざると上に挙げたような進捗状況の共有や勉強会などの機会もでき、学習そのものが楽しくなるという嬉しい効果もあります。
『楽しい!』は最高の動機付け
2つの記事にわたり書いてきた内容はすべてこの『英語学習を楽しむ』ことに繋がっていると言えます。
・自分の欲求と向き合い、学習に集中できる環境を整える
・物理的コントロールによって学習を習慣化しやすい行動をとる
・情緒的コントロールによって継続に繋がるモチベーションを手に入れる
習慣化したあとは、仕事で成果を出したり、資格を取得できたり、はたまた英語を通して世の中のことが少し見えてきたり、と成果が出てきます。こうあると相乗効果でさらにモチベーションが上がり良いサイクルが生まれていきます。
仕事、資格取得だけでなく日々の学習で成長を実感できた時にも、そのうち楽しくなってきます。楽しくなったら続けることはつらくありません。自ら工夫して時間を確保し、学習に一層励んでいくことでしょう。
更に『楽しむ』ことは脳にも大変いい刺激となります。感情の動きを伴う行為は記憶に残りやすいことが多くの研究で示されていますが、楽しむことが高い集中力を生み出す効果も相まって学習効果を高めてくれます。
好きこそものの上手なれ、という言葉は本当にその通りだと思います。
習慣化の習慣化と自律の関係
勉強を始めるということは新しいものを始めることです。習慣になるには最低でも3~4週間程度は必要と言われています。これを達成するために多くの人が上記のようなノウハウを試すのですが、それでも習慣化できない方が多数派を占めているのが現状でしょう。
なぜ習慣化できないか、ということは案外単純です。それは英語学習のために習慣化のノウハウを実践しようとしても、そのノウハウの実践そのものが『新しいもの』だからです。習慣化のノウハウを習慣化するには同じように3~4週間は必要ですから、工夫によって多少難易度はさがるにせよ、結局自分を律することが問われてくるのは変わりません。
自分を律するには自分を知ることが大切です。
なぜ英語を勉強するのか?
前編のテーマだったこの問いに対する答えは、ここまでの内容を理解したあなたならばきっと見つけられると思います。
時間と環境を作るために(まとめ)
英語を1日2時間勉強するのであれば、それまで24時間でやっていたことを22時間にするということです。かなり大変なことですので、24時間がある程度整ったものでないと英語学習を組み込む余裕がなくなってしまいます。また何となく、漫然とやっていては達成困難なことは言うまでもありません。
繰り返しになりますが『英語学習によってどのような欲求を満たすのか』、『英語学習を日常に組み込むための環境は整えられているのか?』というのは英語の学習環境そのものを整えることよりも大切です。
仕事や家族といった社会的条件や内にある欲求など、皆さまがそれぞれ抱える条件の中で独自の英語学習への動機を確立し、習慣化し、仕事でもプライベートでも英語学習を役立てることを願っております。
私もまだまだ勉強中の身ですので、読者の皆さまと一緒に少しでも成長できるよう頑張っていきたいと思います。