英語学習

【学習習慣】英語学習継続のために(前編)
~習慣化のノウハウより大切なこと~

この記事では『英語学習を始めたいが中々重い腰が上がらない』『開始したものの、続かずにやめてしまった』など、習慣化に苦労している方を対象に学習の継続に大切な、基本的ながら意識されにくい『メンタリティ』について書いていきます。

仕事でも学習でも習慣化が大切だ、ということは議論の余地はありません。関連書籍も数多く、ノウハウはいくらでも収集可能です。それにも関わらず多くの人が学習を始めては挫折する現状を目にします。私の知り合いのある看護師は、海外での活動に興味を持ち英語学習を始め2カ月でTOEICを150点近く伸ばしたものの学習が途切れてしまいました。ある程度の期間続け、成果が出ていたとしても、継続することは難しいのです。

これから皆さまに読んでいただくのは、感情と欲求がどれほど行動に影響を及ぼすのか、そして環境を整え身体的、精神的、社会的に健康でいることがどれだけ大切かということです。朝活を生活に取り入れたり、決まった時間に就寝・起床したりと個別具体的な行動をとる前に、本記事の内容を意識するだけで自分が英語学習をする意義を見出だしやすくなり、習慣化の成功率は大きく高まるでしょう。

『なぜ英語学習をするのか?』
『英語学習を続けるために自分に必要なことは何か?』

これらの問いに対する答えを自分の中に探しながら記事を読んでいただければと思います。

人は感情によって動く生き物である

私たち人間は理論的に考え行動する一方、豊かな感情を持っています。感情はとても複雑で一括りにすることは難しいのですが、重要なのは『感情による影響は思ったよりずっと大きい』ことを理解することです。

例えば大変な仕事を急に頼まれたとき、尊敬している相手からの依頼であれば、『この人のためなら頑張ろう』『この人に認められたい、期待を裏切りたくない』といった気持ちを持ち、あれこれアイデアが浮かび、期待以上の成果を出せる可能性が高まります。一方で、たとえ自分が明らかに間違えているときでも、嫌いな上司に指摘されるとその間違いを認めることができず『どうしても納得がいかない』『頭ではわかっているけれど認めたくない』といった感情を持つこともあるでしょう。結果的に指摘されたミスを繰り返したりすることもあるかもしれませんね。

これらの例では上司や部下の態度や行動についても色々な切り口がありますが、ここでは外的要因から影響を受けた結果、感情が行動に強く影響しうる、ということに注目してください。

人間は理論よりも感情で動く。

まずこれを理解するだけでも、普段から感情の変化を客観視できるようになり、気の持ちようが大きく変わってくると思います。

人の行動は欲求充足

欲求と感情の密接な関係

人間が何かの行動をとる、その根源的な理由は『欲求充足』です。何か自分の欲求を満たしたいから行動をとる。そして欲求充足はうれしい、楽しい、気持ちいいといった正の感情と密接に関係しています。そのため、

・昇進したい→仕事を頑張る

ではなく、

・昇進する→社会的地位が上がる(尊重欲求)→仕事を頑張る
・昇進する→給料が上がり、自分や家族が豊かな生活を送れる(安全欲求)→仕事を頑張る
・昇進する→裁量が増え、自分の考えや理想を実現できる(自己実現欲求)→仕事を頑張る

と行動の裏にある感情と欲求を意識する必要があります。必ずといっていいほど、上記のように何らかの欲求が介在し行動に影響を及ぼします。

では、人間の欲求にはどのようなものがあるのか。マズローの欲求段階説に用いて考察していきましょう。

マズローの欲求段階説

米国の心理学者Abraham H. Maslowは1943年に論文『A Theory of Motivation』の中で人間が持つ欲求を5段階に分類し、下位の欲求から上位の欲求に向けて順番に満たされると考えました。

第1段階 生理的欲求

生存のために必要な本能的な欲求がこれにあたります。食事、睡眠などです。これが満たされないと通常その他の欲求のことは考えられなくなります。日本に住んでいる限り、通常これを意識することはありません。

第2段階 安全欲求

危害を加えられない環境で、不安なく暮らしたい思う欲求です。日本は比較的治安もよく、凶悪犯罪に巻き込まれる可能性は低いので、主に衣食住を整える経済的自立が得られているかなどが中心になるかと思います。2020年以降のCOVID-19流行以降、この欲求を経済的に脅かされている人が増えました。

第3段階 社会的欲求

原文ではThe love needsとあり、『所属と愛の欲求』などと訳されることもあります。生命と安全が保障されると、孤独の解消を求めてどこかに所属して安心感や愛情、帰属意識を持ちたくなります。SNSでとにかく『いいね』が欲しくてたまらない、といった事例はこの欲求と、次に述べる承認欲求が関係しているものと思われます。

第4段階 承認欲求

原文はThe esteem needsで『尊重欲求』などとも訳されます。家族でも組織でも、何かに所属するとその中で自分という存在を認めてほしいと考えるようになります。

他人から自分の能力/地位/行動などを褒めてほしい、承認してほしいというものから、自分はこうありたいという願う目標を達成して得られる自己効力感/自尊心といったものまで広くこの欲求に含まれます。自分を承認する主体が他人のことも、自分のこともあるということですね。

SNSで『いいね』を求める行動、出世欲、自律的に取り組んだことの目標達成などが他人からの承認を求める行為に当てはまります。

英語学習で試験を受けるのは、弱点発見、実力診断だけではなくキャリアアップ、合格による達成感などが目的の方も多いと思います。自己効力感や達成感に繋がる行為です。SNSに合格報告をすることは他人からの承認を求める行為に見えますが、それを見た方々が『自分も頑張ろう』と思ってくれるように発信するならば、それはもっと高次の欲求と考えてもよいでしょう。

1つの行動は複数の欲求から起きているということですね。

第5段階 自己実現欲求

第4段階まで満たされると、今の暮らしをしていても基本的には不自由はありません。しかしながら、そこには『自分らしさ』が欠けていたりします。スポーツ選手や画家、といった夢を捨てて会社員の生活をしているならば、第4段階までの欲求を満たせていても幸せではないかもしれません。この理想と現実のギャップを埋めたいと願うのが自己実現欲求なのです。

以上がマズローの欲求段階説になります。歴史が古く、批判もありますが、人間の欲求を理解するのにも自分と向き合う際にも非常に役に立つツールです。興味のある方は、ぜひ原著文献『A Theory of Motivation』をお読みください。

欲求段階説からみる英語学習

ここで、『英語学習を継続できない』ことを欲求充足の観点から見ていきます。

仕事の悩みを抱えている人は時間の捻出ができないのではなく、心身へのストレスや先行きへの不安から安全欲求が充足されていないせいで学習時間を捻出しようと考えることができない可能性があります。こうした場合、よく聞く『時間は作るものだ』といいった正論は通用しません。また、英語ができればモテる、みんなに褒められるといった承認欲求で英語の学習を始めたとすると他の理由で承認欲求が満たされた場合、英語学習を継続する理由がなくなってしまいます。

私の考えでは、翻訳者や通訳者、英語講師など『英語そのものが仕事』という人を除き、英語の学習を継続するポイントは、英語学習が『自己実現欲求』になっていることだと考えています。すなわち、マズローの欲求5段階説の視点から言えば、その前段階までの欲求がある程度満たされていなければなりません。このことはもう少し詳しく、後に記載しています。

もちろん、ある行為は人によっては安全欲求と承認欲求の手段だったり、承認欲求と自己実現欲求のための手段だったりと、複数にまたがっている場合もあるでしょう。柔軟に考えて、自分の中での英語学習の立ち位置を明確化していただければと思います。

英語学習に心を向ける準備は整っているか?

自己実現欲求を満たす手段として英語学習を続けるためには、まず下位の欲求がある程度満たされている必要があると書きました。

生活に困窮しない程度の収入と衣食住、信頼できる家族や友人に、良好な職場関係・・・

マズローの欲求段階説における4段階目まで満たされた状態です。よく見ていただくと分かるのですが、実は4段階目までは『不足を補う欲求』です。

第4段階までは生きるため、生活のため、精神的な安らぎのため、社会的な地位のため、不足したなにかを満たしたいと思って行動する原動力なのです。衣食足りて礼節を知る、という言葉もありますが、不安定な状況が解消されてはじめて+αの取り組みを行うことができることも意味していると思います。そのため私は、身体が、心が、環境が健全な状態にあることが英語学習に向き合う際の土台にと考えるのです。

その整った土台に、『英語を使って成し遂げたい何か』が加わることで英語学習を継続的に、精力的に行うことができるようになります。逆に心身を病んでしまうほど仕事が過酷である、理不尽な扱いを受けているなどといった場合は英語学習どころではありません。必要に応じて周りの力を借りつつ、転職さえも視野にいれて解決する必要があるでしょう。ここでは欲求が満たされていない状態を『病んでしまうほどではないが、英語学習に気持ちを向けるほどは余裕のない状態』と考えていただければと思います。

もちろんそれぞれの欲求の強さは人によって異なります。また欲求段階説に基づいて説明していますが、欲求充足を求める順番が人によって異なる可能性も大いにあります。そのため、今どの欲求がどの程度満たされているかは自分で知っておく必要があります。

なぜ英語を勉強するのか?

冒頭で投げかけた2つの問いは、

『英語によって自分のどのような欲求を満たしたいのか?』
『英語学習を続けるためには、どの欲求充足が不足していて満たしておく必要があるのか?』

と言い換えることができます。先に述べた通り私は、英語学習は自己実現欲求だからこそ続くものと考えております。英語を全く知らなくても一定の収入を得て衣食住を整える方法は沢山ありますし、友人や家族も持てますし、仕事やプライベートで承認欲求を満たすことは可能だからです。英語がなくても現状にある程度満足できているならば、英語学習は特に必要ではないと思っています。

一方で翻訳、通訳、英語教育に携わる方々にとっては英語そのものが仕事に直結しているため、英語学習が『安全欲求』の充足に重要な位置を占めます。先程も述べた通り、4段階目までは『不足を埋める欲求』なので、先行き不透明な中で安全を脅かされないように(=食いっぱぐれないように)語学力を鍛え、成果を出していくことになるからです。大変なことですが、生活がかかっている以上、必死になります。一方で私を含む、こうした職業ではない人は英語学習をしないことで4段階目までの欲求が脅かされることは通常なく、ゆえに『自己実現欲求』の手段でない限り継続することが難しいのです。例えば英語学習のせいで睡眠時間が削られ仕事(本業)に支障をきたしたり、SNSを見る時間が減って孤独感を感じたりなど、悪いところが目立ってしまうと学習したい気持ちが失せてしまいかねません。

こうした理由から、4段階目までの欲求を満たすこと、すなわち身体的、精神的、社会的に健全な状態でいることが英語学習を続ける土台として重要だと私は考えています。

皆さまの置かれた状況はいかがでしょうか?ノウハウをあれこれためしても継続できない自分に嘆く前に、改善できるところがあるかもしれません。少しでもその力になれたならば幸いです。

まとめ

英語学習の習慣化し長く続けていくために是非意識してほしいメンタリティについて書いてきました。

人間は感情によって動かされ、その行動の原動力は様々な段階の欲求です。欲求は様々な種類に分けられ、マズローの欲求段階説に基づけば下位の欲求を満たさないと英語学習を継続するために必要な身体的、精神的、社会的に健康でいること、そのための環境を整えることが大切です。

そして学習の習慣化と継続のためには自分の感情と欲求に正面から向き合い、なぜ自分が英語を学習したいと思ったのかを考えてみましょう。

なぜ英語を学習するのか?

自分の中に答えを探すことで学習は自然と習慣化されやすくなるでしょう。私自身も自分と、自分が今おかれている環境を分析し、日々学習に取り組んでいる身です。長い道のりですが1歩ずつ進んでいきたいと思います。

読んでいただきありがとうございました。