英語資格試験

【英語資格試験】(中~上級) 最難関英語資格試験 徹底比較

今回解説する『最難関英語資格試験』とは、

・英検1級
・TOEIC 990点
・全国通訳案内士(英語)
・国連英検 特A級
・工業英検1級

の5つを指します。

数々の書籍を出版している英語スクールAquaries School of Communicationの植田一三先生は『英検1級、TOEIC 980点、全国通訳案内士(英語)』で3冠、国連英検 特A級・工業英検1級を加えて5冠と呼称しているようです。TOEFL iBT/IELTSの高スコアも加えて7冠とすることもあるようですが書籍などによって点数が若干違うのでここでは取り扱いません。

ここでは上記に挙げた5つの試験について

・概要
・難易度
・合格者のレベル感と実務との関連

といった観点から概要を説明していきたいと思います。

私はこれらの資格を全て取得していますので、この記事を通して『英語資格試験の最難関に位置付けられている試験とはどういうものか?』という情報を簡潔にまとめた形でお届けし、英語学習を続けている皆さまの目標設定やモチベーション維持の役に立てれば幸いです。

最上位級の比較を目的にした記事ですので、それぞれの試験の基本的な説明(英検には1級~5級まであって・・・など)/受験方法や問題形式などの解説は最低限にとどめ、概要説明は比較に必要な内容のみとしています。

① 英検1級

英検1級の概要

子供から大人まで、英語資格試験の代名詞といえる『実用英語技能検定』の最難関がこの1級です。1次試験は100分の筆記試験(語彙問題/長文問題/エッセイライティング)と約30分のリスニング、2次試験では10分弱の面接の中で2分間スピーチと関係する話題の質疑応答が出題されます。

英検1級の難易度

10000-15000語程度の語彙力、社会的な話題に対する理解力、発信力、質問への回答力と、4技能すべてを評価する試験になっています。『核兵器は廃止すべきか?』といった国際的な話題について自分の意見を書く・話すことが求められるため背景知識の理解も不可欠です。100分に及ぶ筆記試験には200-240語のエッセイライティングもあり、書き慣れていない人はかなり苦しむことになります。

合格率は確認できる範囲で約10%と難関で、大学レベル以上の英語力を求められます。本記事は5冠の比較がメインなので、過去問含め詳細は実用英語技能協会HPを参照してください。

合格者のレベル感と実務との関係

合格者のレベル感としては、帰国子女など長期海外滞在歴のある場合を除けば

『十分に準備された環境の中であれば交渉、プレゼン、会議などに参加し自分の意見を述べることができる。不測自体や緊急時、即興での発言に対する瞬発力には乏しい。』

というのが平均くらいかと思います。合格者の多くが合格の喜びや達成感と同時に、

『こんな私が英検1級なんて受かっちゃっていいの?』
『長年の目標だった英検1級には合格したものの、英語で仕事ができるか自信がない・・・まだまだ頑張らねば!』

という気持ちを持つことが多いように思います。

この理由は実力をつけた結果、その先に広がる世界を見ることができるようになってしまうことによります。大きな目標を越えた先に広がる世界の広さ、英語で実務を遂行する難しさや伴う責任をより具体的に感じてしまうのです。周りからも『英語ができる人』認定されて期待され、プレッシャーも大きくなります。

実際は全く準備せずにプレゼンをすることも交渉や会議の場に臨むことも、普通ならあり得ませんので大体何とかなるのですが、なまじ実力があるだけに全部自分で、『その場で』何とかしなくては、と思ってしまうのかもしれません。実務経験を重ねると、場慣れするとともに実務能力も向上してこの問題は解決していきます。

英語ユーザーとしての自覚を持つ上級者の入口、それが英検1級です。

② TOEIC L/R 990点

TOEIC L/Rの概要

正確にはTOEIC® Listening & Reading Testといいますが、TOEIC L/Rと略します。就職、承認、海外赴任などの条件として最も広く用いられている試験です。試験時間は約2時間、リスニング100問、リーディング100問で構成されビジネス英語を中心に出題されます。合否ではなく10-990のスコアがつきます。

TOEIC L/R 990点の難易度

ご存知の方も多いと思いますがTOEICの問題自体は難しくありません。必要な語彙も6000-8000語程度と他の試験に比べて多くなく、長文もシンプルです。またリスニングもはっきりゆっくり流れ、せいぜい1分くらいと長くありません。

問題は情報処理力と集中力です。990点を取るのに必ずしも全問正解する必要はなく、回によってはL 97/100、R 99/100くらいの正答数で990点の可能性があります。だから楽かと言われればそうではなく、油断して一度何かに躓くと途端に急ブレーキがかかり、一気に時間に追われることになります。ここにTOEICの怖さがあります。ケアレスミスをせず、簡単な問題を手際よく捌く能力、それがTOEIC 990点に求められている力です。

950~970点くらいまではTOEICの対策をひたすらやっていれば取れるのですが、990点になるとそうもいきません。場合によっては975~985点で1年以上停滞することもあり、消耗戦の様相を呈してきます。結局TOEIC対策ばかりでなく、幅広い英語に触れることが近道であることに気づき、英検1級を先に取得することが多いです。

合格者のレベル感と実務との関係

ライティング、スピーキングを問われないTOEIC L/Rは残念ながら実務との相関性が低いことが特徴です。800点、900点の人の中には英語の運用能力に乏しい人も結構目にします。TOEIC L/Rの点数だけで実務能力を推しはかるのは難しいと言わざるをえません。

ただ『990点』に関して言えば、TOEIC L/Rの勉強だけでは中々取得できないので学習の過程でアウトプット練習をしていたり英検1級を取得していたりするケースが多く、そういう方は前述の英検1級合格者の項で触れた程度の運用能力があると考えてよいかと思います。

➂ 全国通訳案内士(英語)

全国通訳案内士(英語)の概要

以下、(英語)は省略します。通訳案内士は語学系唯一の国家資格で、元々は観光地等を有償ガイドするのに必要な業務独占の資格でした。しかしながら2018年の法改正で業務独占が撤廃され、地方ごとに『地域通訳案内士』という制度が始まるとともに資格がなくても有償ガイドができるようになってしまいました。

一般的には通訳ガイドとも呼ばれ、旅行会社と契約し外国人団体のツアー等に同行する人から独自サイトを運営しているフリーランス型の人まで多岐にわたります。

全国通訳案内士の難易度

通訳案内士試験の1次試験は語学/日本歴史/日本地理/一般常識/通訳案内の実務の5科目からなり、語学/日本歴史/日本地理/一般常識についてはそれぞれに試験免除項目があります。

英語については英検1級、TOEIC L/R 900点、TOEIC speaking 160点、TOEIC writing 170点のいずれかを取得していれば語学の試験が免除されます。TOEIC L/R 900点が一番簡単だと思いますが、2次試験が約10分の面接で逐次通訳+質疑応答+2分間スピーチという内容になりますのである程度のアウトプット能力がないと通用しません。英検1級の2次試験をある程度余裕をもって突破できるくらいの英語力ベースは必要だと思います。

実際の試験勉強は日本歴史/日本地理/一般常識/通訳案内の実務といった他の科目の勉強の方がメインです。日本歴史はセンター試験と同じ科少し易しいくらいであまり難しくはありませんが一通り高校レベルの復習をするとなると社会人にとってはそれなりに大変です。ただ日本地理の試験範囲(観光地、建造物、祭りなど)は歴史と紐づいていることが多いので、日本歴史を軸に学習するとると効率的に学習ができます。私も『日本に住んでいながら日本のことを全然知らなかったなぁ』と思いつつ、わくわくしながら勉強していました。

一般常識や通訳の実務も対策が必要なので、英語力を伸ばさないと筆記試験や面接に太刀打ちできない段階で受けるのはお勧めしません。英検1級に受かった次の段階として、歴史・地理・観光の視点から日本について理解を深め、取得を目指す、というのが正攻法に感じます。

合格者のレベル感と実務との関係

通訳案内士の2次試験は逐次通訳、スピーチ、質疑応答により構成されるためスピーキング能力としては幅広く問われてきます。元々英検1級を持っている状態で受験することや、服装や話し方・雰囲気作りもコミュニケーションの素養として重要視されることを考えると、合格者のレベル感としては英検1級合格者より少し余裕を持って英語での実務ができると思います。

しかし私は、通訳案内士資格取得により得られる最大のメリットは『日本に対する理解』だと思います。これは海外のビジネスパーソンと対面やオンライン会議など、リアルタイムで仕事をするときに大きく生きてきます。

日本企業だろうと海外企業だろうと国境を越えて活躍するようなビジネスパーソンは自国史、世界史、宗教、国際情勢などについて深い知識を持っていることが当たり前です。そうした人たちと仕事をするときに日本の歴史や文化、思想などについて質問されても、そつなく答えられるでしょう。自国の文化をよく理解している博識な人物だと思われれば相手に信頼してもらいやすくなります。

上記のためであれば、色々と旅行に行ったり、本を読んだりしても十分可能ですが英語学習と紐づけて学習したい方や英検1級を取った後にさらに学習を深めたいという人には非常におすすめの資格です。

④ 国連英検 特A級

国連英検 特A級の概要

正式名称は『国際連合公用語英語検定試験』といい、実施団体は公益財団法人日本国際連合協会という国内の団体です。

特A級の1次試験は国連の知識/長文問題/エッセイライティングから成り、長文もエッセイも近年の国連の活動内容と絡んだ話題が出題されます。2次試験はスピーチなどを伴わない面接で、国連の活動、近年の国内外の時事問題、国際問題等に対する日本の立ち位置やかかわり方などについて、知識の確認や自分の意見を答えるなどです。

国連英検 特A級の難易度

求められる英語力として、この国連英検 特A級とこの次に述べる工業英検1級については他の3つとレベルが全く違う、というのが大きな特徴です。正直一括りにして5冠と呼んでいいのか、とさえ思うくらいのレベル差ですので目指す場合は心してかかりましょう。

私見ですが、まず語彙力は20000語レベルが必要と推定します。長文も英検1級は100 wpmくらいで読めば十分なのに対し、それより遥かに高度な英文を140~150 wpmで読まないといけないので時間との戦いになります。また、ライティングでは国連の活動に関係した高度なBody Paragraphを書かなければなりませんし、採点も英検1級よりは遥かに厳しいです。英検1級で合格ライン少し上くらいのエッセイを特A級で書いたら恐らく20点中7-8点くらいしかもらえないと思います。

1次試験はこれでもまだマシで、問題は面接です。概要で述べたように国連の各組織に関する基礎知識、国連の活動、国内外の時事問題とそれらに関する日本の立ち位置や活動、日本の政治・経済に関する基礎知識を持っていない、あるいはそれらを理解した上での論理的な応答ができなければネイティブやバイリンガルでも平気で落ちます。

「核兵器をなくすにはどうすればよいと思いますか?」という質問に対して「対話を続け、世界各国が協力することが大切」という趣旨の解答で何とかなるのが英検1級、

「世界唯一の被爆国として核兵器の撤廃に向けて、アメリカの核の傘に守られた日本は国際社会でどのように関わっていけばいいのか」という質問に、「核の傘のおかげで防衛費が節約できた日本は経済的に発展した」「アジアを取り巻く中国やロシアの脅威」「日米韓の同盟関係の冷却」「イラン核合意などを例に経済的・政治的な観点から足並みを揃えることの難しさ」を絡めて日本の担うべき役割を論理的に伝える必要があるのが特A級です。

準備で対策のしやすいスピーチもないので、12-15分の面接を耐えられるようにしっかりと国際情勢について理解と思考を深めておきましょう。私の時は、ちょうど参議院選挙の直前だったこともあり、国内の話題が少し多かった印象があります。

合格者のレベル感と実務との関係

基本的に国連英検 特A級合格=大抵の実務に即応可能と考えて問題ありません。準備して臨める場はもちろん不測自体にも柔軟に対応でき、お互いに誤解が生じている場合などはそれに気づき、指摘し、修正できるといった機転や柔軟性を持ちます。

特A級合格するということは国際情勢や日本の国内問題にもかなりの知識を持っている状態ですので、背景知識や基礎教養の面からも海外のビジネスパーソンと対等以上に渡り合えるでしょう。また、話し方についてもかなりフォーマルな語彙、構文で話せるはずなのでどこに出ても恥ずかしくないと思います。

⑤ 工業英検1級(技術英検プロフェッショナル)

工業英検1級の概要

工業英検は昨年『技術英検』と改称され、工業英検1級に相当する級は『技術英検プロフェッショナル』となりました。

報告書、仕様書、マニュアル、論文といった技術文書の翻訳に特化した試験であり、翻訳者を指導する立場の観点からの能力も問われてきます。和訳、英訳、品質の悪い日本文とその英訳を適切にリライトする、要約など、リーディング/ライティング能力が必要です。2020年から技術英検と名前を変え、1級は『プロフェッショナル』と改称されました。合格ラインは得点率75%かつ全ての大問で50%以上を得点することです。

工業英検1級の難易度

私は最初過去問を見た時に『受からせる気あるのか?』とさえ思ったのが、この工業英検1級です。高難易度、膨大な問題量、そして手書き、5つの中でも時間に追われる度合は群を抜いています。翻訳者が受けて大問7つ中3つしか終わらなかった、とか普通にあります。紙の辞書2冊持ち込むことができますが、そう何度も引く時間はありません(そもそも何度も辞書を引かなければ解答を作れないような英語力では絶対に受かりません)。

脊髄反射でペンを走らせなければ終わらないくせに採点基準も厳しく、訳文は商品クオリティを求めてきます。採点基準は非公開ですが、工業英語協会のセミナーに出たり添削を受けたりして感じるのは、文法的・構文的に正しい訳文を書いたとしても冗長な、あるいは原文の体裁(仕様書、マニュアル等)に合わないものを書くと容赦なく減点されている可能性が高いということです。別の記事で解説しているテクニカルライティングを高いレベルで習得していることが必要です。

合格率も翻訳者・翻訳志望者が受験者の大半と5つの試験の中でも受験者の母集団は最もハイレベルと予想されますが、合格率2-5%くらいという難関っぷりです。毎回150~200人くらい受けて2~6人くらいしか受かりません。

合格者のレベル感と実務との関係

工業英検1級を取得すると工業英語協会が実施するセミナーで講師を務めるたり、翻訳業界では有名な資格ですので保有者は一目置かれます。資格的にも実力的にも、翻訳者として十分通用するレベルだと考えます。ただしリーディング/ライティングの能力しか問われないので、交渉や会議の場に出られるスピーキング力があるかは判断できません。とはいえ英語を仕事にする翻訳者や通訳者は名刺代わりに英検1級を取ることが多いので、ある程度話せる人が多いとは思います。

元々翻訳者向けの資格ですから、企業勤めのビジネスパーソンなどがこの資格を取得する必要は正直ないというのが私の見解です。企業勤めでこれだけの英語力であればほとんどの場合専業の社内翻訳者ではないか、と思います。

余談ですが『技術英検』と名称が変わる前は工業英検2級(現 技術英検準プロフェッショナル)が実務翻訳者として通用するレベル、工業英検1級が実務翻訳者の指導者レベルという位置づけだったのですが、工業英検2級相当を『準プロフェッショナル』としてしまったことが翻訳者の方々を苦しめている節があります。(専業の翻訳者なのに“準”プロフェッショナルです、なんてちょっと履歴書に書きにくいですよね・・・)

難易度の比較

文面から何となく推察できるかと思いますが、取得が簡単な順番になっています。

必要な語彙力、問題の難易度、採点基準、時間制限、取得に必要な学習時間を総合すると、

工業英検1級(技術英検プロフェッショナル)>国連英検 特A級>>通訳案内士>TOEIC L/R 990点>英検1級>>TOEIC L/R 900

といったところでしょう。先に英検1級は上級レベルの入口、というのをご理解いただけるかと思います。

もちろん、実務で英語を使用する観点から言えば『求められる仕事を英語でこなせるだけの英語力』があれば十分なので必ずしもこれらの資格がなければダメ、ということでもありません。

しかしながら難関資格を持っていると実力の保証にもなり、職場へのアピールにもなり、試験合格という通過点がモチベーションとなります。そういう意味でこれら資格試験の最上位級がどのようなものか、概要を知っておくことはある程度実務で英語を使用する学習者にとっても有益なことと考えています。

まとめ

英語資格試験の最難関5つについて概説しました。

英検1級を上級者の入口と位置付け、さらに難関の4つの試験を紹介しました。たしかに取得するのは難しいのですが、日々学習を継続し、目標をもって正しく進んでいけば必ず合格できます。既に挑戦中の方も、この記事で初めて知った方も、一つ一つ基礎を積み重ねて自分にとって必要な英語力を目指していただければと思います。資格試験はそのためのよき通過点になってくれることでしょう。私も英検準1級やTOEIC 900点を経て現在のように英語で仕事をすることができるようになりました。

また取得するのが難しい資格ほど、勉強する課程で学びも多くなります。実務で通用する英語力を身につけるための情報提供だけでなく、英語学習そのものの奥深さ・楽しさを伝えたいというのが、このブログを通して私が目指すことでもあります。

これからも色々な記事を通して英語学習について皆さまにお伝えしていきたいと考えています。最後までお読みいただきありがとうございました。